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「不倫」はなぜ起こるのか。現代文学から「不倫」を読み解く。

近年、メディアを賑わすようになった「不倫」の話題。老若男女、どのような立場の人であっても「不倫」をスクープされようものなら、たちまち周囲から集中砲火が浴びせられます。「不倫」は確かに倫理的に問題があることです。しかし、過去の文学作品から「不倫」をテーマにしたものを全て弾き出すとしたら、相当な数の作品がごっそりと抜け落ちてしまうこともまた事実です。
そこで私がおすすめしたいのは、「不倫」をテーマとした現代文学です。「不倫」を人間の心の在り方の一つとして客観的に捉え、世論には流されない自分なりの価値観や定義を掘り下げてみてはいかがでしょうか。

 

A2Z

A2Z (講談社文庫)

一冊目は「A2Z」(山田詠美 著)。Accident(A)、Breath(B)、Confusion(C)…とアルファベット順に進行するこの物語は、スタイリッシュで理想的な関係にすら見える編集者夫婦の、妻が語り手となります。
夫から自分以外の女と恋に落ちたことを告げられ、ほどなくして自分も年下の男と新たな恋に落ちていく…この状況を“W不倫”と一言でまとめてしまうのはとても簡単なことです。しかし、読み進めれば進むほど、彼らをそんな簡単な言葉で括ることはできないことに、あなたは気が付いてしまうかもしれません。
男女の深淵を覗きこむ重めの内容とは裏腹に、Zip!(Z)で見事に締めくくられるラストには、まるでパズルのピースがピタッとはまったような爽快感を覚えてしまうから不思議です。清廉潔白な人間だけがもてはやされる社会に息苦しさを覚える方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

 

トリアングル

 

トリアングル (中公文庫)

二冊目は「トリアングル」(俵万智 著)。短歌集“サラダ記念日”で一世を風靡した歌人・俵万智が2018年現在まで、唯一発表した小説がこの「トリアングル」です。
主人公の薫里は33歳。仕事で順調にキャリアを積み、気ままな独身生活を謳歌しています。彼女の恋人は既婚者のカメラマンMと、年下のフリーター圭ちゃんの二人です。
二人の男性の間でいわば二重生活を送る薫里の生活は、不思議なほど何の問題もなく進んで行きます。しかし、ほんの僅かな違和感や些細なほころびはやがて、薫里を意外な場所に運んで行きます。
繊細な心理を掬い上げる筆致はもちろん、物語の随所に挟み込まれる短歌も見事な一冊です。「不倫」という単語そのものに違和感を覚えてしまう方はぜひ、一度手に取ってみて下さい。

 

国境の南、太陽の西

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

三冊目は「国境の南、太陽の西」(村上春樹 著)。結婚し、子供にも恵まれ、手がけた事業では大きな成功を収めている主人公・ハジメ。ある日、幼き頃に恋した“島本さん”がふと目の前に現れたことで、彼の日常は非日常と激しく交錯していきます。
夢か現実かもわからなくなる不思議な浮遊感から逃れられないハジメと島本さんとの不倫関係は、果たして現実に着地できるのか、それともそのまま非現実の世界へと足を踏み入れてゆくのか。印象的なラストシーンでは、人の心の脆さ、生きるということのあまりの険しさについて、思わず考え込んでしまうかもしれません。一度読み始めたら最後まで読むのを止められない一冊で、おすすめです。


以上が、私がおすすめしたい「不倫をテーマにした現代文学三選」です。「不倫」は対岸の火事でしかない、と思っている方にもぜひ読んでいただきたい、人間の心を奥深くまで掘り進めた作品ばかりで、とてもおすすめです。

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